独立時計師って何者?独立時計師の作品の魅力と修理について解説!
公開日:2023/05/15 最終更新日:2023/04/21
独立時計師とは、独立時計師アカデミーに所属するわずか40名弱しか存在しない時計のエキスパートのことです。今回は、独立時計師とは一体どのような人たちなのか解説します。独立時計師の作品の魅力、日本人の独立時計師と彼らの作品、独立時計師がつくった精緻な時計は修理できるのかといった内容についてもまとめました。
独立時計師とは
独立時計師とは、スイスに本部を置く「独立時計師アカデミー(AHCI)」の会員として活動している時計のプロのことです。AHCIが設立された1985年ころ、スイスの時計産業は大打撃を受けていました。その原因はクォーツショックです。1969年、これまでの機械式時計とことなるクオーツ時計が発売されました。
これまでの主力だった機械式時計よりも正確で安価なクオーツ時計は瞬く間に時計市場を席巻し、機械式時計メーカーの多くが倒産したのです。その後、機械式時計の人気の高まりによりスイスの時計産業も復活しますが、独創的で高い技術をもった時計師たちが互いに協力するためにAHCIを立ち上げました。
AHCIの会員になるには独立した時計師であることのほかに、高度な技術と独創性を持っていることが求められます。しかも、アカデミーのメンバーから推薦をもらわなくてはなりません。その後、世界的な時計の見本市に出品し、問題がなければ準会員になることができます。
準会員になったあと、2年続けて新作の時計を発表し、AHCIの総会で出席者全員の賛同を得ることで、はじめて、正会員になれるのです。ここまできて、やっと独立時計師として認められます。独立時計師の作品は市場で高く評価され、高額で取引されることも珍しくありません。
2021年11月、フィリップスが開催したオークションにフィリップ・デュフォーの作品が出品されました。オークションでは懐中時計ひとつ、腕時計3つの計4点セットに14億円越えの値段が付いたのです。このことからも、彼らの作る時計が高く評価されているとわかります。
日本人独立時計師はいる?
日本人の独立時計師は、菊野昌宏氏・浅岡肇氏・牧原大造氏の3人です。
菊野昌宏氏
菊野氏は日本人初の独立時計師で、2013年にAHCIの会員となりました。「和」の要素を取り入れた時計が世界的に高く評価されたのです。菊野氏は手作業での作品作りに強いこだわりを持っています。部品作成ひとつとっても、機械制御でつくるのではなく、一点一点、手作業でつくりあげているのです。
非常に複雑な構造の時計であるトゥールビヨンでさえも手作りで製作する技能を有しています。菊野氏の時計は希少価値が非常に高く、数百万円から数千万円という値がつけられているのが特徴です。
浅岡肇氏
浅岡氏は2015年にAHCIの会員となった独立時計師。東京藝術大学デザイン学科を卒業後、独学で時計製造を学び時計製作の世界に入ります。2009年に国産初のトゥールビヨンを発表し話題となりました。2015年にAHCIの会員になった後も革新的な時計を次々と世に送り出しています。
浅岡氏の作品の特徴は微細加工とデザイン力。微細加工とは金属などに対し文字通り微細な加工を施す技術です。こうした技術力はトゥールビヨン作成に最大限生かされています。
牧原大造氏
牧原氏は2019年にAHCIの会員となった独立時計師です。もとは料理人だったという牧野氏は独立時計師フィリップ・デュフォーの作品に魅力され、時計の世界に飛び込みました。牧野氏は時計だけではなく彫金の技術にも優れ、自ら彫金の作業も行う稀有な時計師です。
日本人独立時計師の作品
菊野氏の出世作ともいえるのが「不定時法時計」です。かつて、日本では季節によって時間の長さが変わる不定時法を用いていました。同じ「未(ひつじ)」のときでも、季節によって時間の長さが変化します。この変化を組み込んだ大変複雑な時計を世に出し、高く評価されたのです。
このほかにも月をモチーフにした「朔望」や折り鶴のオートマタ(機械人形)を組み合わせた「折鶴」など、和のテイストをふんだんに用いた時計が人気です。浅岡氏の体表策は先ほども取り上げたトゥールビヨンですが、シンプルな手巻きの「ツナミ」も人気の作品。精密な内部機構を垣間見ることができる作品で、こちらも人気です。
牧原氏の江戸切子を組み込んだ作品も見事のひとことにつきます。時計という西洋を象徴する技術と日本の江戸切子が融合した作品は見るものに強い印象を与えるでしょう。
独立時計師の作品は修理できる?
独立時計師が作り上げる時計はどれも精密で、一般的な時計店での修理は困難です。高度な修理技術を持つ一握りの時計店だけが修理できますが、インターネット上で「独立時計師の時計修理ができる」と公表している時計店は決して多くありません。また、公表している店で絶対に修理できるわけではないので、実物を店舗に持参し、修理できるか聞くとよいでしょう。
まとめ
今回は独立時計師の作品や魅力について解説しました。一般的に名の知れた高級時計と違い、独立時計師が作り上げる作品は1点もので、極めて高い希少性を持っています。それだけに入手は難しく、入手できたとしても修理はとても大変です。しかし、独立時計師の作品はそれに見合うだけの価値を有しているといえるので、大切に使っていきたいものでしょう。